地下世界を支配する光の王子
出される食事に問題があると感じたイリオンは、その後、食べるのを止めた。
すると、予想通り、かっての思考力が甦って、冷静な判断ができるようになったのである。
やがて、イリオンは、聖なる都を支配する光の王子「マニ・リンポチュ」への謁見(えっけん)を許される。
秘密結社のメンバーであっても、光の王子に接見できるのは数分であるのに対し、イリオンは30分という破格の待遇だった。
メンバーの人間は光の王子を神のごとく崇め、世界を救うメシアであると信じていたが、イリオンは疑念を抱き始めていた。
聖なる都の社会を見る度に、傲慢なエゴの臭いを感じていたのだ。
謁見に際して、メンバーは黒い儀式用の衣に着替える必要があった。
しかし、イリオンは否定した!
あるがままの姿で対峙することが大事だと考えていたからである。
周囲の者は驚き、混乱したものの、光の王子は受け入れた。
かくして、イリオンは宮殿の聖所へと通された。
そこには、7人の幹部が並んでいて、さらに9人の祭司長に連れられ、ついにイリオンは光の王子の前に立つことになる。
光の王子は長身で、白く長い髭を垂らしていた。柔和に威厳のある皇帝のように振る舞い、イリオンに対して使命を果たすべきだと説いた。
彼は聖なる都で3日間過ごせば、大切な意義を悟るだろうと語ったのだ。
会談は予定よりも長く続いたが、イリオンは納得せず光の王子の言葉を信じることができなかったのである。
不信感が募るまま、謁見(えっけん)の時間は過ぎ・・・
周囲の人間たちは、イリオンを祝福し、秘密の教えについて語った。
イリオンは、秘密の儀式を通じて、聖なる都とは何か考え続けた・・・
・・・しばらくして、宮殿の扉が開き、光の王子が出てくると、光の王子はイリオンの前に立ち、決意は固まったか」と彼はあの空ろで金属的な声で話しかけてきた。
それに対して「固まりました」とイリオンは決然と答えた。
そうすると光の王子は顔に深く息を吹きかけてきた。
「妖術師め。ついに本性を現したな!」とイリオンは心の中で呟いた。
瞬間、イリオンが全身全霊で「創造主の名において命ずる!下がれ!」と叫んだ!!明確なる拒絶である。
秘密結社の本拠地において、首領の意向に逆らい、あからさまに侮辱すれば、どうなるか子供でも分かる。
身の危険を感じたイリオンは、脱兎のごとく走り出し、一目散に聖なる都を後にしたのである。
しかし、彼らは裏切り者というべきイリオンに対して呪いをかけてきた!!
呪殺である!
イリオンは、棺桶の中に入っている感覚に終始、襲われたものの・・何とか生きて帰ってくることができたという。
イリオンはサンポ峡谷から逃げる途中、聖なる都へと向かう一団に出会う。
彼らが運んできたものは死体だった・・・
各地で死んだ人間の遺体を多数、担架に乗せて運んでいたのである。
一団は聖なる都の高官であり、下層民が運んできた遺体を並べると、黒魔術を始めた。
そうすると、驚くことに、死体のうち3体が蘇生し・・!
自力で起き上がり歩いていく・・・その姿はロボットのようであり、目には生気が無い・・
つまり、聖なる都の下層民はゾンビだったのだ! 一度死んだ人間の肉体だけを蘇生させ、奴隷として使っていたのである。
残る遺体は、聖なる都の食糧に・・・・・
地下世界の住人が食べていたものとは・・・
聖なる都の住民は下層民も支配層も、光の王子も、人肉を食らっていたのである!
イリオンは、自分も気づかず死体を食べていたかと思うと、戦慄を覚えたという。
食事をするたびに思考力が失われ、生気が奪われていくと感じたのは、それが人肉だったからだと悟ったのだ。
イリオンは、聖なる都の鏡で自分の顔を見たとき、鏡に映る自分の顔に驚いた。
およそ、魂が宿っていない。まるで死人のようだったのである。イリオンの著書には次のように記されている。
「彼らはみな、堕ちた天使だった。神のようにならんとして、そのために自らの栄光を失ったあの天使だったのだ。
戻る見込み無き奈落の底に自らをまっさかさまに投げ落とした彼らは、今や他の者達をも仲間に引き入れ、奈落の底に陥れようとしていたのである。
光の王子とは、実は光を装った闇の王子だった」
・・・
長文失礼しました^^;
イリオンのサンポ渓谷での戦慄の体験は以上です。
あとがき
実はサンポ渓谷の秘密結社とは「シャンバラ」からの罪人の集団とも言われていて、その罪とは・・・
「食人」!!・・と言われています。
イリオンの体験からも彼らが人肉を食べていたと言っているので、サンポ峡谷にある聖なる都とは、シャンバラの流刑地だと考えられます。
以上のことから、ここ「サンポ渓谷」の地下世界の秘密結社は「シャンバラ」と間接的に関係はありそうですが・・・
やはり、この場所は正真正銘の「シャンバラ」では、なかったようですね。
またゾンビという部分はあまりにも非現実的なので、
その死体として運ばれて来た人達は、何かの薬物で一時的仮死状態に陥っていたと思われますね。
つまりその秘密結社は、周辺地域の身寄りのない人間に薬を盛り、死んだようにみせかけ
その死体の処理をするからと運び出し、
彼らの地下都市をつくるための奴隷として働かせていたのではないでしょうか?
イリオンも人肉を食べたことにより精神不安定状態になったと述べていますが
おそらく食べ物に何かの薬物を盛られていた可能性もあります。
また、イリオンは破格な待遇で光の王子に謁見を許されたというくだりから
もしかしたら薬物と彼らの洗脳により、仲間に引き入れられていたのかもしれません・・・
・・・その後イリオンは1936年にドイツへと帰還。
そして1937年、衝撃的な体験を「神秘のチベット」「チベットの闇」という2冊の本で発表しました。
次回はチベットを探検し、このサンポ渓谷の秘密に迫った別な人物の体験を紹介しますので、よろしくお願いします。
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